遺産分割のやり直し…贈与税等課税は必至!
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相続税を申告した後で…
〈遺産の取り分が少ない。分割をやり直したい〉‥と、新たにモメることがあります。
相続人自ら押印して作った書類ですから、《やり直せる》と思うのでしょう。
確かに、やり直すのは簡単そうですが‥?
『遺産分割』のやり直しはできるのか
「弁護士」さん的には…
「できます。」《相続人全員の合意で可能》という、最高裁の判例があります。
「司法書士」さん的には…
「登記も直せます。」印鑑証明さえあれば、登記をやり直すのは簡単です。
「税理士」さん的には…
「ダメです。」成立して有効になっている「遺産分割」のやり直しは、《相続の修正》ではなく、譲渡や交換や贈与の行為とみなされます。そして、新たに課税されます。
民法上や登記上は簡単にやり直せても、税務上は、問題アリなんですね‥。
それでも「遺産分割」をやり直したければ、いろいろな努力が必要です。
裁判所を利用する
税法運用の根本を定める法律に、「国税通則法」があります。
この法律の『特例』では、裁判で〈事実が税額計算の基礎と異なる〉という「判決」が確定したときは、税金の申告をやり直すことが認められています。
「判決」には、《判決と同一の効力を有する和解その他の行為》を含みます。
つまり、判決等が「遺産分割」のやり直しを命じる形で、問題解消となるワケです。
裁判官に、「和解」をお願いするようなものでしょうか‥。
税額を減額したい
平成3年…遺産分割協議を完了して、相続税8千万円の申告をしたAさん。
ところが、配偶者が、《「遺産分割」のやり直し》を考えました。
もっと多額の遺産を相続すれば、「配偶者控除」を使って相続税を2千万円に減額できることに、気が付いたのです。
平成5年10月4日…成立済みの遺産分割協議を無効として新たな分割協議を求める和解申立を、簡易裁判所にしました。相続人同士の争いなど無いので、和解は簡単です。同年10月21日、裁判官の立会いの元に「和解調書」が作成されました。
(裁判官は、「この忙しいのに、節税で裁判所を使うな〜」とか、言いたかったかも‥)
「和解」の意味を考える
同年11月8日…税務署に更正の請求(申告のやり直し)をして、差額の6千万円を還付するように求めました。
しかし、国税不服審判所は、差額の還付を認めませんでした。(平成8年4月24日)
「和解調書」は、《判決と同一の効力を有する和解》です。「国税通則法」を素直に解釈すれば、思惑通り、相続税の減額が実現するはずです。いったい、ナゼでしょう‥?
最初の遺産分割協議でも、相続人同士に権利争いや問題は、ありませんでした。
「国税通則法」の趣旨からすると…Aさんが作成した「和解調書」は、《「国税通則法」で認められる特例の『和解』》とは、異なるようです。
申告漏れが見つかった場合
「遺産分割」は終わったけれど…税務調査で申告漏れが発覚したBさん。
遺産分割協議をやり直して「配偶者控除」を使いたいのですが、それはできません。
申告漏れがあった財産は、遺産分割の対象外です。ですから、この財産については「遺産分割」のやり直しは可能です。
そこで…『代償分割』の登場です。
「代償分割」を工夫する
「代償分割」とは、ある財産を相続する代わりに一定の義務を負うことで、税務で認められているものです。
Bさんは、〈長男が申告漏れの財産500万円を相続して、母に3億8000万円を支払う〉という「遺産分割」をしました。差額の3億7500万円については、実質的には《遺産分割のやり直し》です。まるで、ウルトラC(古い?)ですね。
でも、財産より義務が多いのは問題でした。税務署と争って、裁判になってしまったのです。(東京高裁・平成12年1月26日)
最悪の結末
結論は…差額の3億7500万円は「贈与税」の対象とされ、「配偶者控除」は使えなくなってしまいました。「相続税」と「贈与税」の、ダブルパンチです。
《差引マイナスの財産》を相続する「遺産分割」などありえないとして、相続税の計算上、3億8000万円の扱いが否認されたのです。
実務上、《遺産分割のやり直し》に関する相談は、結構多いものです。でも、現行の税務の扱いを考えれば不可なのです。基本的に‥。
やはり、《最初の遺産分割協議》が大切です。
「遺産分割協議」のやり直しは、可能です。ただし、贈与税等の課税がくっついてきますよ。